地底人♀(以下、『地』)
「治療してもらって助かった。
あんたは地底人嫌いと聞いていたんだが、存外に親切だな。」
リザードマン族♂(以下、『リ』)
「当然だろう。俺は〝地底人〟が嫌いなんだ。お前が嫌いな訳では無い」
地
「……わたしは地底人だぞ?」
リ
「何もおかしくはない。
俺は地底人全体が嫌いなのであって、地底人のお前個人が嫌いな訳では無い。
同時に、お前が良いやつであろうと嫌なやつであろうと、地底人への評価が変わるわけではない。」
地
「なんで地底人が嫌いなの?」
リ
「自分たちも戦争で同じことをしていたのに、我らだけを責め、
以前の取引でこの諍いは終わりだとしたのに、手のひらを返して地底人が一方的に有利な外交を続けている。
さらに世界中でリザードマン族の悪事だとして、事実ではない悪評をばら撒いている。
列挙すればまだまだあるが、わざわざ言語化が必要か?」
地
「……えーと、政治的に、歴史的にってこと?」
リ
「そうだな。それはお前らもだろう。
俺が地底人を嫌いになったのは、歴史を根拠にお前らがリザード満足を嫌い、
延々と我らに賠償を求め続け、国際的な約束さえ反故にする。」
地
「そうかもだけど……それ、あたしがやったことじゃないんだけど。」
リ
「そうだな。だからお前のことを嫌いなわけではない」
地
「よくわかんないなぁ
じゃあ、あたしが良いやつだったんだから、地底人は嫌いじゃない、とは ならないの?」
リ
「ならん。
地底は圧政ではない。
国民の支持した者が王となり、その政策を指示するものと批判しないものが圧倒的多勢だ。
地底人多数が、リザードマン族へ不当な要求を容認している。俺はそれが許しがたい。」
地
「でも、それは地底人全員じゃない」
リ
「そのとおりだ。だから俺はお前ら個人を嫌いなわけではない」
地
「うーん……よくわかんない。それって、結局は差別なわけでしょ」
リ
「納得いかんが、そう言われているな。
差別とは属性から個人を不当に扱うことのはずだが、個人を嫌悪せず属性を嫌悪することも差別扱いされるらしい。
それに、俺はお前と会うまで、地底人と会ったことはなかったんだからな。」
地
「会ったことないのに嫌いだったって、やっぱり差別なんじゃない?」
リ
「そういうことになるらしいな。
だが、俺が1000人の地底人に会って1000人が良いやつだったとして、それは1億の地底人の0.001%。
データとしては不十分だ。
そもそも個人が良いやつかは関係がない。
リザードマン族を害する政治を容認し続けて、著名な地底人がリザードマンを侮辱していながら地底人がそいつらを支持し、権力を持たせ続けているという事実と行動による嫌悪だ。」
地
「うーん……」
リ
「俺はお前らの定義では、たしかに差別者らしい。
しかし俺は俺個人で地底人を嫌悪しているわけだが、
地底人は国家として我らを差別している。そしてその国家を誇っている。その面だけで判断しているわけでなくともだ。
個人が差別していなかろうと関係がない。
それをいうなら、リザードマン族には地底人好きが多数いる。俺はリザードマン族からも差別者扱いされているさ」
地
「それでもあなたの主観では、それは差別じゃないって?」
リ
「そうだな。
差別とは、属性を根拠に個人を不当に扱うことだ。
俺は属性を嫌っているが、地底人のお前個人を不当に扱うつもりはない。
そして差別とは明確な根拠なく行われるものであったり、現在存命ではない者に押し付けるものだ。
俺は現状で、リザードマン族を害する政治に意を唱えないことと、リザードマン族に対する違法行為を英雄視する一部の人間を糾弾しない地底人全体を嫌悪している。
それら、実際の行動を嫌悪しているのだ。
例え話として、99%のエルフ族がリザードマン族を害しても、1%のエルフ個人を不当に扱うことが差別なのは事実だ。
だが、99%のエルフの横暴からエルフ族全体を嫌うことは当然だろう。ただし、1%のエルフを、種族理由で不当に扱ってはいけないだけだ。
俺はそれを不当に扱わない。だが、地底人を嫌悪することの主語は地底人以外に無い。
詳細に言えば地底王の決定に影響を与えられる地底人でありながら地底王の決定を非難しない者だけを嫌悪しているとも言える。
だが、いちいちその長ったらしい主語にしろというのか?」
地
「………まぁ、言う。
その言い方なら、お前は差別者扱いされにくくなるだろうからな。
全員が政治に関心があるわけではないのにと文句は言われるだろうが、
それが許しがたいというのは自由だ。」
リ
「ぬ………そうか。まどろっこしいものだが……」
地
「それに、やはり政治に関心がないものや、反対するものまで属性として括られるのには違和感がある。
リザードマン族とて、王の決定全てに賛同しているわけではないだろう?」
リ
「そのとおりだ。俺はリザード王に対し、地底への弱気な態度や、リザードマン族よりも他種族を優遇するような決定に異を唱えている。
だが、俺とて地底人族で地底の王に意を唱える地底人のことは好ましい。」
地
「ならばやはり、面倒でも主語を明確にするべきじゃあないかな。
お前も、『リザード王の決定を覆せないリザードマンだろう』と敵対する種族の民に言われたら気分が悪いのではないか?」
リ
「ふむぅ……
俺は明確に異を唱えているのだから言われる筋合いはないし、
逆の立場の地底人には言っていないのだから、二重規範をしているつもりはないのだがな。
たしかに、それをもってリザードマン族を嫌悪すると言われれば、俺まで含めるなとは思いたくはなるか。」
地
「そういうことだね。
あたしは、あんたを良いやつだと思う。
まどろっこしい主語になったとしても、あんたが誤解されてほしくないよ。
正しく伝えたとしてもあんたを差別者扱いするヤツのほうが多いだろうけど、少しは減るんじゃないかな」
リ
「………考えておくとしよう。」
