高飛車奴隷ちゃん 考察

考察|感想|分析|ネタバレ

※この記事には、重大なネタバレが含まれます


高飛車ドレイちゃん ハミタの読み切り
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高飛車奴隷ちゃんとは

高飛車奴隷ちゃんとは、漫画家のハミタがPixivで連載していた無料のファンタジー漫画である。無料Kindle版もリリースされている。

この記事について

主にラストエピソードの考察。

筆者の考察を載せる。今回はちょっと特殊な解釈(=難解・無理のある点がある)かもしれない。有力な考察(素直に読めばそうなる)とはかなり外れた内容。

◯◯◯=奴隷ちゃん説

最終回付近で、庶民が死に、奴隷ちゃんは短パンに敗北する。

ここで、「短パンは奴隷ちゃん自身なのではないか」という説がよぎった。その理由を少し並べよう。

根拠

1つ1つは薄めだが、たくさんある。

  • 問題が解決していない(戻れば庶民が殺される)のに家に帰ろうとする
    • 庶民が死んだため、彼の形見の革靴を回収するために帰る強い動機ができた
    • 革靴は大切だろうが、庶民の命>>>>>>革靴のはず。
    • なのに、ここだけは自分の欲を優先して庶民の命を危険にさらす選択。これは庶民がすでに死んでいるから、と解釈すれば自然になる。
    • 革靴の回収だけでなく、後述の多数の理由からも、動機に報復が考えられる
  • 短パンが黒猫を殺す合理的な理由が見当たらない
    • 無駄が嫌いなのに、無駄に殺した
    • 「生きるために殺す」の哲学とも矛盾する(生きるのに黒猫を殺す理由がない)
    • 黒猫が最初から短パンに懐いている。彼が奴隷ちゃんなら、すでに懐いていても納得
    • 無駄なことが嫌いならそもそも飼わない可能性が高い
    • 「理由なんて聞いてどうする」と言っていることから、殺したことに合理的な理由がない自覚がある
    • 彼が奴隷ちゃんなら、合理的ではない動機として黒猫を理由に魔女を疑われ、そのせいで庶民が死んだことが挙げられる
    • これは黒猫に一切の非がない。が、奴隷ちゃんが「原因として恨み(八つ当たり)、殺す理由」にはなる
    • 庶民が死んだ時、のんきに甘えてきたのもシャクに触った、なども考えられる
    • 短パンは理由例として次の2つをあげている。
      • 鳴き声が癇に障る(かんにさわる)
      • 急に愛想が尽きた
    • 上記は、庶民が死んだために引き起こされたと考えれば、タイミング的にも自然。
  • 短パンは黒猫に名前をつけていた
    • 追っ手として来た短パンの愛猫がここにいるのは不自然
    • となると、愛猫というのはウソっぽいのに、彼は名前をつけていた
    • 奴隷ちゃんが「肉」と呼んだのを否定している
    • 「肉」と名付けた奴隷ちゃんに庶民は「そんな名前を付けるな」と言ったことから、内心で名前を考えたのを代弁させたという解釈
    • 「プルート」という名前はローマ神話における冥府の神。ギリシャ神話におけるハデスであり、「死」がキーワードになる存在である
  • 圧倒的強者が奴隷ちゃんと短パンしかいない
    • 同一人物と考えてもこの点は不思議がない。
  • 短パンは庶民に手を出していない
    • すでに死んでいたからだが、彼が奴隷ちゃんであれば、攻撃しない理由として通る
  • 短パンから「裸足の奴隷」と言われて革靴を置いてきたことに気付く
    • 彼が奴隷ちゃん自身という前提で考えれば、だが、庶民が死んで残された物がそれだけだと自分で気づいたとも解釈できる
    • 庶民が死んで、逃げる理由がなくなりその場で倒れ込み、頭だけを動かせる状態ならそうなるのは極めて自然
  • 無駄が嫌いなのに見守らなかった
    • 奴隷ちゃんも庶民も、ほっとけば村人に殺された
    • なのに村人を皆殺しにして、結果的にではあるが奴隷ちゃんを解放しまった
    • 奴隷ちゃんに圧勝できる強さがあるため問題ないとは言えるが、無駄ではある
    • ただし、村人が処刑するより自分が手を出したほうが早く終わると考えたなら、見守るほうが無駄とも言える
  • 突然、持論を語る短パン
    • 庶民が村人からリンチを受けた時にあらわれ、村人を殺戮
    • 突然、愛猫を殺害
    • 「誰であろうと殺すべき」と語る→ここでこの価値観を完全に固めたという演出と解釈できる
  • 眠ろうとしない奴隷ちゃん=不眠症の短パン
    • 短パンが不眠になった理由:金槌で殴られた
    • 奴隷ちゃんは庶民が起きるまで一睡もしないと言っている
    • 庶民が永遠に起きないため、奴隷ちゃんは眠るわけにはいかない
    • 奴隷ちゃんは、庶民が起きた時に自分が眠っていたら金槌で殴れと書き置きしている
    • 眠りの話と金槌の一致は、別人ならかなり奇妙な偶然である
    • 他の作品を読んでも、作者のストーリー構成や演出力はすさまじい。ラストという重要なシーンの貴重なセリフで不眠の話が出て、金づちという単語を出すなら深い意味を込めるはずである
  • 最後のコマが奴隷ちゃんの書き置きと金づち
    • ここでも金づちがとても重要なパーツであることが推測できる。そして、この重要なシーンの前に短パンが金づちという単語を出した。
    • ここで庶民と奴隷ちゃんの死体を描くこともできた。奴隷ちゃんの死は明確に描写されていない。
  • 奴隷ちゃんの祈り → 十字架に見える短パンの剣の演出
    • 手を祈りの形にしたのは、奴隷ちゃんが本当は庶民の死に気づいている演出にも見える(ただし、起きるまで一睡もせず回復を祈ると発言しているため、不自然ではない)
    • リスクがあるとはいえ、重症は間違いない庶民を医者につれていかずベッドに寝かせただけ
    • 思いつかなかったわけではない。庶民が死んだ村で「医者がいれば脚を診てもらえるかも」と言っているため、医者に診せるという発想はある
    • 医者を頼ると庶民を危険にさらすとも言えるが、危険という意味では庶民の家に戻るのも同じである
  • 短パンがわざわざ城の剣を奪っている
    • 別に不思議はないが、奴隷ちゃんが城を襲撃したついでに奪ったと解釈できる(奴隷ちゃんは武器を扱えるが、自分の剣はなかった)
    • 短パンの強さなら問題ないだろうが、わざわざ盗んでから亡命すると追跡されるリスクが増す行為である
  • 奴隷ちゃんの最後の台詞
    • お疲れ様。あなたが起きるまで、一睡もせず回復を祈るわ。でも…あまりに遅いと、私はまた寝てしまうわ そうしたら、その手で叩き起こして頂戴ね。
    • 上記の台詞は次のように解釈できる
    • 起きるまであまりに遅い:奴隷ちゃんはやはり庶民の死に気づいている
    • 叩き起こす=金づちで殴る→殴られて不眠症の短パンになる
  • 短パンの最後のセリフ
    • 口に出した最後のセリフは、「近い内にあの国は滅ぶ」根拠は「あの国は、けったいな奴隷に目をつけられていたからな」
    • この理論は、彼自身が奴隷ちゃん=推測ではなく滅亡させる宣言と考えれば自然
    • それとも、短パンは一度戦闘しただけで、ここまで奴隷ちゃんの人間性を見抜けたのか?(ありえなくはない)
    • 奴隷ちゃんは庶民の死後「人の為に生きる奴隷であることにやりがいを感じた」と語っている。
      短パンはそれに反して「私のような人間は自らの為に生きるだけで精一杯」と考え(感じ)、片足の騎士と革靴の奴隷に別れを告げる=奴隷ちゃんであることを捨てて短パンになる。
    • 「願わくば、人の為に生きて報われる世になってほしい」で締められる。これは、奴隷ちゃんの価値観と一致する。

彼の人間性と行動の矛盾

短パンは奴隷ちゃんを殺さなかった。これは彼の哲学と矛盾する。

「人間は自らが生きる為なら、親も恋人もペットも、友人も実の子供でさえも、誰であろうと殺すべきなのだ」

(これはスラム育ちで、庶民を除けば誰でもためらいなく殺す奴隷ちゃんにも共通する)

この理由として、下記のものが考えられる。

  1. 彼女が自分の命を犠牲にしてでも庶民を助けようとしたセリフに心動かされた
  2. 上記の理由で気まぐれを起こした
  3. 本当に惚れた
  4. 奴隷ちゃんは自殺を選ばない

4.だが、庶民の死を認めていないため死ぬ動機がないとも解釈できる。だが、ここでも本当はわかっているのに庶民の死を認めていないという可能性が見える。

ただ、これについては

突然、奴隷ちゃんが身の上話を始めた、という根拠しかない。それまで、奴隷ちゃんは一切自分のことを語っていなかったのに、である。そしてこの時、領主の娘問題が解決していないのに家に帰ろうとする。他の奴らならともかく、短パンが戻っていれば奴隷ちゃんは勝てない=今度こそ庶民が殺されるのに。

革靴は大切だろうが、庶民の命>>>>>>革靴のはず。

なのに、ここだけは自分の欲を優先して庶民の命を危険にさらす選択。これは庶民がすでに死んでいるから、と解釈すれば自然になる。

この考察の矛盾点

  • 短パンが実在せず、奴隷ちゃんの生み出した幻覚兼自分自身だった場合、おかしな点がある
    • 奴隷ちゃんの知らない神の視点シーンで、領主の娘と短パンが会話している
    • 奴隷ちゃんが革靴を取りに来た時も、領主の娘が短パンの話をしている
    • 奴隷ちゃんの脱出手段が謎。そもそも拘束されていなかった?

その他、わからない点

  • 庶民の脚は「魔女の呪い(感染病)」にかかったのか?
    • 領主の娘が庶民の脚の黒さに驚いているが、死体であり壊死しているならおどろくことはない
    • 「体に黒い斑点が出る」とされるが、絵からは斑点かそうでないかを見分けにくい。だが、血にしては不自然な点が見えることから、感染している可能性はある
    • しかし、村についてから死亡するまでに時間で感染・発症するだろうか?
    • 魔女狩りをしている人が全滅していないことから、近づいたからといって感染するとは限らない→庶民は感染しているが、奴隷ちゃんには伝染らなかったかもしれない
    • 短パンが奴隷ちゃんでないならなぜ推測できたか不明だが、「たちの悪い奴隷によって国が滅ぶ」という発言が、庶民の体を感染源にして「魔女呪い」を広める行為と解釈することもできる。
    • 上記の場合、短パン=奴隷ちゃんなら、奴隷ちゃんは庶民の体をそのままにして亡命
    • 短パンが奴隷ちゃんでないなら、奴隷ちゃんは庶民のそばで死を待ったと思われる
    • 領主の娘が「何なのよその脚」と言った回で読者がつけたハッシュタグは「黒死病」
    • 「黒死病」という名の由来は、症状が進行すると敗血症による皮膚の出血斑で体が黒ずんで見え、発病から2-3日で死亡してしまったためだと考えられている(黒死病 – Wikipediaより)という記載とも完全に一致する。
    • この場合、短パンが亡命した理由にも納得できる。なんらかの手段(庶民の死体を見た時点?)で黒死病に気付き、その時点で亡命が必須となった
    • この解釈の場合、短パン=奴隷ちゃんという考察の大部分は否定され、奴隷ちゃんは庶民の一番近くで黒死病に感染し、死亡したと思われる

余談:R18について、解釈と魅力

本編は全年齢だが、作者のFANBOXには、奴隷ちゃんのR18イラストも投稿されている。

他作品にも言えることなのだが、同作者のR18イラストは、これがIFなのか作中世界で実際にあったことなのは不明なことが多い。

奴隷ちゃんの場合、彼女が奴隷であるだけでもそれが庶民とのものと解釈してもおかしくはない。また、二人の関係性からして「もうつきあっちゃえよ」な雰囲気もあるといえばある。が、奴隷ちゃんの哲学的に「奴隷と庶民が対等に恋愛するなどあり得ない」だろう。もし作中の行為だとすれば、あくまで主従関係という体のはず。(ちなみに、幼少の頃からしていた奴隷の仕事に「夜の世話」が含まれているシーンは本編でも1コマ描かれている。モロではないので見逃す人が多いかも。)

序盤で奴隷ちゃんが「家の中なのに服を着ていていいの?」と言い、奴隷ちゃんが風呂に侵入してきた時は「何だよ、入るなら服脱いでこいよ」と下心なさそうに庶民が言っているため、互いに裸を見せ合うことに抵抗はない模様。これで手を出してないとは考えにくい。

作者のR18FANBOX作品の魅力の1つとして、本編が全年齢であるにもかかわらず、FANBOXで解釈自由なR18イラストになる点がある。

他にも読み切りや、本編がラブコメだったりするものでもそうしたイラストがあると「そうか、この人たち(あるいは、この子)」もそういう姿があるんだな、となる。

これはある意味リアルで、多くの人は(少なくとも私は)他人を見て「この人もR18してるんだよな~」とは考えない。夜の姿なんて想像もしなかった人(キャラ)のそうしたものを、予期せぬタイミングで突然見たような刺激。少年誌の全年齢のラブコメだと思ってたら普通にR18だった的な衝撃である。

刺さる人には刺さって抜けないかも。

まとめ

考察のピックアップ

  • 彼は実在しない=短パンは奴隷ちゃん自身
    • 庶民が殺されかけた(殺された)時点で突然出現した
    • →唯一尽くしたい対象をうしない、自分が生きる(+復讐の)ために殺すだけの価値観にシフトした
  • 彼は実在し、途中から奴隷ちゃん自身のイメージになる
    • 実際に戦闘して奴隷ちゃんを見逃したパターン
    • 今までの自分と庶民に別れを告げ、自分より強く生きるために殺す短パンを自分のイメージにした
  • 彼は実在し、作中に登場する短パンはずっと彼自身
    • 素直に考えればこれなのだが
    • 少し戦っただけの奴隷ちゃんへの理解が深すぎる
    • 奴隷ちゃん一人で国を滅亡させられると考えている
    • しかし「あの国」と言っていることから、国から離れている
    • 彼が奴隷ちゃんだと考えると、行動の矛盾か、他国を巻き込み滅ぼしたりなんらかの準備をするなど、これはこれで自暴自棄ではない本気の行動という解釈になる
    • 奴隷ちゃんなら単騎特攻を選びそうだが、本気でつぶすために合理的な行動を選び始めたというのも矛盾はない

面白すぎて考察を書かずにはいられなかった。

そしてこの考察が的はずれだったとしても、ラストの限られたページのみでこれだけの材料や考察の余地があるもの、そしてその考察が楽しく、苦ではないものは間違いなく名作である。

ラストが切なすぎる物語ではあるが、無料で読み始めやすいので、ファンが増えてほしいものだ。

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