はじめに
ゴーストオブツシマ(Ghost of Tsushima、以下「GoT」)は、鎌倉時代に蒙古(モンゴル帝国)が日本の対馬に攻めてきた史実を元にしているゲームです。
蒙古の「人間とは思えない残酷すぎる所業」は、GoTでも色濃く反映されています。
GoTのストーリーとかシステムやワンシーンが、どんな史実に基づいて作られたかを紹介します。
当記事はゴーストオブツシマのネタバレと、ゲーム中の残酷な画像(スクリーンショット)を含みます。ネタバレを見たくない方は下の記事をどうぞ。(下の記事も流血表現があります)
今回の「史実」とは「歴史書にある」という意味です。
GoTに見る「モンゴル帝国」という強大な敵
日本が鎌倉時代の時、モンゴル帝国は中韓からヨーロッパまでの広大な範囲を支配していました。今でいうロシアかそれ以上の国土を持っていたことになります。
そんな蒙古は日本にも目をつけました。900隻もの船を半年でつくり、3万人以上の兵で日本に侵攻します。
GoTのボスであるコトゥン・ハーンは、かの有名なチンギス・ハーンの親戚です。
人数が少ない上に正々堂々戦ってしまう、日本の誇り高き武士
対馬の小茂田で蒙古と戦ったのは、たった80人の武士。
しかも武士は真正面から名乗り出て一騎討ちを挑んだり、我先にと敵陣に突っ込んで正々堂々と戦うスタイルでした。
一方、蒙古はそんな戦い方に合わせる理由もなく、10人小隊からなる連携のとれた集団戦法で取り囲んで武士を殺害します。GoTで一騎討ちに申し出た武士に酒をかけて生きたまま燃やし、首をはねています。
GoTでは敵の集団に気づかれる前に名乗り出ると一騎討ちを挑むこともできて、その時は敵も応じてくれます。
しかし一騎討ちのあとは結局全員で襲いかかってくるので、こちらの誇りに相手が応じてくれないのは同じです。一騎討ちのメリットは勝てば敵が即死すること、回復や技の発動に必要な気力が多く得られることです。
一騎討ちでは一太刀で敵が即死しますが、ボス戦は1対1での真剣勝負になります。こちらは一撃ではなく激しい読み合いと攻撃の応酬です。しかも強力な兵具が使えず、刀のみで勝負しなくてはいけないので少しむずかしい。
ストーリーでのラスボスはプロローグの負けイベントで戦ったコトゥン・ハーンですが、真剣勝負に負けると毒をかけてきたり部下を呼ぶなど、やはり武士の誇りと真逆の行動。
しかし皮肉なことに真剣勝負では無くなるので仁も兵具が使えるようになり、めちゃくちゃ体力のあるコトゥンを全兵具を用いてボコボコにすることができます。
敵が多くても兵具はまとめて敵を吹っ飛ばしたり、長時間よろめき状態にできる強力なものばかりなので、真剣勝負の方がコトゥンは強かった。
誇りの無い戦い方だからこそ、コトゥンは冥人に完全敗北することになるのです。
蒙古たちの邪悪と狙い
蒙古の武器は「恐怖」。従う者は優遇しますが、逆らうか逃げる者にはひたすら残酷です。
戦う武士だけでなく、民間人も残酷な方法で殺されました。赤ん坊の泣き声から、逃げた人たちが隠れている場所を見つけて、赤ん坊さえ股裂きにしたと言います。捕虜にした女性の手に穴を開けて数珠つなぎにして船にくくりつけ、日本の武士が弓などで船を攻撃できないようにするなど人間とは思えない戦略をとっています。
対馬を侵略した蒙古でしたが、人数が多いこともあり食糧にはかなり困っていました。
武士では無い民間人を殺して食糧その他全てを奪うのは当たり前で、時には武士の腹を割いて内臓を食べたという記録もあるようです。
ただ残酷に殺すだけでなく従う者を優遇することで、侵略する国から技術を盗むのも蒙古の強さです。「飯も食わさず飢えさせ生きたまま燃やし残酷に殺されるか、お前の技術を教える代わりに飯もあたたかい場所も与えられるか選べ」と言われて抵抗できる人がどれほどいるでしょうか。
日本を護った神風
GoTでは仁の目的地を風が教えてくれます。
諸説ありますが、史実でも蒙古軍が海上にいる時に暴風雨が襲い、多くの蒙古兵が溺死したという記録があります。蒙古にトドメをさしたこの風を「神風」と呼ぶことがあります。
風はプロローグで死にかけた仁を導いてくれただけでなく、武具と馬を失い蒙古から毒矢を受けて逃げる時、コトゥン・ハーンを追い詰める時にも味方してくれました。
神風と言えば国から死ぬことを命令された第二次世界大戦の特攻を思い起こさせますが、元々は日本を護るのに自然が力を貸してくれた、まさに神風だったのです。
冥人(くろうど)
タイトルから誤解されがちですが、仁は不死身ではなく死ねばそれまでです。
それでも80人以上の武士が全員死んだ中で仁と叔父の志村の二人だけが生き残り、リベンジしたコトゥン・ハーン戦で再び死にかけたところから復活して、手段を選ばず蒙古を追い詰める姿はゴーストと言って差し支えない存在です。叔父の志村が生きていたのは権力者で利用価値があるからであって、仁が生き延びたのは運によるところが大きいのです。
ゲーム的には死んでも直前から再開され、ロードが短いのですぐにプレイし直せるのは嬉しいところ。
仁が手段を選ばない冥人になっていく理由
蒙古や賊は、仁に気がつくと捕虜を真っ先に殺そうとします。
仁は「武士の誇りを守れば民が死ぬ」ことを痛感し、教えを破ることに抵抗を感じながらも手段を選ばず民の命を優先するようになります。
その1つの手段が闇討。
敵に気づかれることなく背後や上空から奇襲する、武士から見れば卑劣な手段。しかし上手く闇討ちすれば民の命を危険にさらさず蒙古から守ることができる、というわけです。
闇討に慣れない序盤は、叔父の志村から「何よりも武士の誉れを守る大切さ」を教わった記憶がよみがえる演出があります。
「こんな戦い方をしていいのだろうか」という仁に、プレイヤーとしてもかなり共感できる演出です。
冥人と忍者
隠密や闇討ちなど、「忍者では?」と思える戦術ですがGoTに忍者はいませんし、単語も出ません。
仁の叔父の志村は誇り高き武士で、「虚に乗じるは臆病の証」と断言し、冥人である仁にたびたび苦言をしていることから、地頭という権力者でありながら忍者を抱えていないと思われます。
本土から来た武士も、「本来の掟に従っては?」と仁に言います。これは仁が武家だからかもしれませんが、もしかするとGoTの世界に忍者がいないのかもしれません。
蒙古の兵器「てつはう」
「てつはう」は現代でいう手榴弾のようなものです。
武士は刀と弓で戦っていましたが、蒙古はてつはうも使用。場合によってはまとめて吹き飛ばされます。
GoTの主人公・境井仁(さかいじん、以下「仁」)は正々堂々戦う武士の誇りを捨てて、蒙古の兵器である「てつはう」も使用するようになります。
さらに仁は「てつはう」に松脂(まつやに)を塗って、敵の体にくっつくように改良。ゲーム中でもこれは強力な武器で、投げつけた時点で敵がよろめき、爆発して多人数の蒙古に大ダメージとよろめきを与えます。よろめいている敵に追撃すれば、たいていの敵を仕留められてしまうほどの威力があります。
毒殺
仁は蒙古を効率よく殺すため、毒を使うようになります。
史実では、蒙古が矢に毒を塗っていたことで多くの日本人が死んだことが記録されていますが、GoTでは仁が毒を使ったことで、蒙古も毒の使用を覚えてしまったという皮肉なストーリーです。
ストーリーや戦闘中に、仁も毒矢を受けることがあり、解毒せずに一定時間が経過すると死亡します。なお、GoTでの解毒には気合を入れるだけでOK。仁強い。
トリカブト
0.2グラム〜1グラムで、経口摂取でも数十秒で死亡するとんでもない毒です。
GoTでも毒を受けた敵が血を吐きながら痙攣して死亡する演出はけっこうグロい。
毒殺すると、周囲の敵が確率で「腰抜け」状態になり、逃走します。
逃走する敵はその時点で死亡と同じ扱いになり、全滅ミッションでは逃走中の敵しか残っていなければその時点でクリア。
追いかけて斬るか弓で殺すことも可能で、タフな敵でも腰抜け状態なら一撃で死亡します。
彼岸花(ヒガンバナ)
真っ赤で独特な形をした花で、ネズミ除けの毒草として墓地に植えられていたこともあり、時には死の象徴として描かれることもあります。毒としての症状は嘔吐・下痢・昏睡など。
GoTでは味方も無差別に攻撃する混乱付与の毒になっています。
日本の文化や蒙古との違い
日本では鹿や狐は神聖な生き物だった
日本にとって、鹿は神聖な生き物でした。たまに妖怪あつかいもされますが、狐もお稲荷さまの使いであるとして尊重されています。
しかし蒙古の拠点をよく観察してみると鹿や狐が殺されていることがわかり、仁が狐の仇を取るサブイベントもあります。
仁から見た鹿
GoTでは対馬探索していると、鹿はけっこう見かけます。獣の皮は強化素材として必要ですが、仁が鹿を殺しても手に入りません。
ゲーム中で「鹿は殺しちゃいけないよ」とは誰も言いませんし、おそらくペナルティもありませんが、ロード画面でたまに「鹿は神聖な生き物なので、殺すと白い目で見られるよ」なんて表示されます。
仁から見た狐
対馬探索をすると「狐の巣」が見つかります。
狐はお稲荷様の使いで、ついていくと小さなお稲荷様の社に到着します。
仁がお稲荷さまに手を合わせる(お祈りする)と、護符の装備スロットが解放される重要な強化が得られる強化要素です。護符はいわゆるアクセサリ枠の装備で、「敵を倒すと体力が回復する」「敵の犬をてなづけられる」など強力なものばかり。
実はお参りする前は一匹だった狐の像が2体に増えています(ゲーム内説明なし)。
案内してくれた狐も消えていることがあるので、もしかするとお稲荷さま自身なのかもしれません。とは言っても、その場に残っていることもあります。その時は狐をなでられます。かわいい。
なお対馬観光物産協会のスタッフブログよると、対馬に狐はいないそうです。
日本の馬はかけがえのない相棒、蒙古にとっては乗り物であり肉
仁は叔父から、蒙古を毒という卑劣な手段で殺したことを咎められ、囚われの身になります。蒙古を倒すために脱走することになりましたが、その時に愛馬が追手の矢を受け、そのまま過酷な長旅をしたことで死亡しました。
仁はボロボロの体で、そのかけがえのない友を丁重に埋葬します。
一方、コトゥン・ハーンは「先日、我の馬が足を折ったので部下に食わせてやった」と発言しています。
コトゥン・ハーンは仁に「情けよりも実を取る。我らは似ていると思わないか」と言いますが、愛馬の死に対する違いや、仁が情けをかけない相手は敵のみであることから「二人の誇りの違い」を感じさせられます。
墓を荒らす蒙古
当時のモンゴル帝国には墓という概念が無かったのか、埋葬するだけで墓のような目印になるようなものがありません。
権力者であるチンギス・ハーンの霊廟すらなかなか見つからなかったほどです。
GoTでは「墓場を見たら蒙古がいると思え」というほど、蒙古が墓荒らしをしています。中には墓石が破壊されているなど、許しがたい所業もあります。
残酷な方法で殺すだけではなく、日本人の遺体まで痛めつけた蒙古としてはお供えものを盗んだり、民間人へ恐怖や嫌悪を抱かせるための嫌がらせかもしれませんね。
竹を切って、気力を上げる修行
GoTでは各地に「稽古台」があります。
時間内(1〜2秒)に指定のボタンを正確に押すことでポイントがたまり、一定値に達すると回復や技の使用に必要な気力の最大値が上昇します。
日本では実際に、刀の修行として竹を斬る「試し斬り」という修行があります。
剣は金属の重さで叩き切る武器ですが、日本刀は斬る武器です。力や動きだけでなく技術が重要なので、こういった修行方法が用いられていたんですね。
竹は成長が早いので、忍者が毎日竹を飛び越える。どんどん高くなる竹と一緒にジャンプ力も上げていく、なんて修行があると言われるほど日本文化と竹は切っても切れない関係のようです。
神社で護符をいただく
日本では神社にお参りする文化があります。信心深くない人でも初詣だけは行く、という方が2020年を過ぎても少なくありません。一年の健康や安全な出産をお願いする人もいるでしょうし、お守りも売ってますよね。
GoTでは神社への道のりが異常に厳しくなっていて、敵は出現しませんが、橋は基本的に焼け落ちていて崖をよじ登ったり小さな穴を潜り抜けなくてはたどり着けません。
しかし神社にお参りすることで「戦闘中でない時に体力が回復する」「受け流し、受け流しの極意、後の先の極意が発生しやすくなる(パリィなどがしやすくなる)」など、護符装備の中でも特に強力なものが手に入ります。
鳥居の中央は神様が通る場所なので、人は鳥居の端側を通る、という文化もあります。GoTではそこを気にする必要は無いみたいですね。
到達難易度について、対馬観光物産強化のスタッフブログでは次のように語られています。
GOTの神社はだいたい断崖絶壁の上にあり、訪問難易度が極めて高いため、Twitterなどでも
「対馬の神社は参拝させる気があるのか?!」
と突っこまれていますが、実際に白嶽山頂近く(雌岳)にある白嶽神社の鳥居などは、ゲーム並みの訪問難易度です。
対馬観光物産協会 Ghost of Tsushima(ゴーストオブツシマ)と対馬の神社について
GoTのプレイヤーでもあり対馬観光の関係者が「ゲーム並の訪問難易度」と言ってしまうほど険しい場所にある鳥居。大変なだけにお参りすると加護をもたらしてくれそうなありがたみがあります。
そもそも津島の神社の場合は、他の地域の神社のように近くに行く形でお参りするのではなく、人が簡単に近づけない場所にある神社を遠くから拝む形であるそうです。
だからこそ、本当にゲームのような過酷な道のりの白嶽神社の鳥居のような場所もあるんですね。
GoTの聖地巡礼をするなら、登頂しないまでもぜひ遠くから拝みたい場所です。
秘湯(温泉)で体力の最大値が上がる
仁が各地にある秘湯で体を休めると、体力の最大値が上昇します。ゲーム中、システム的に不眠不休で戦い続ける仁の数少ない安らぎの時間で、2択の考え事ができます。
大半は真面目な内容ですが「あー、酒飲んで女子といっしょに風呂入りたいなー」など、意外な一面を知ることもできます。この考え事は1周につき1度しか選べないので、全て聞くには2周目や初めからプレイし直す必要があります。
一方で、蒙古の遊牧民などはあまりお風呂に入る習慣が無いようです。
GoTでも秘湯は蒙古にまったく荒らされておらず、近くに蒙古兵の姿もありません。仁は「硫黄の匂いを嫌うのか、浸かると病気になると思っておるのか」と話しています。
対馬を代表する妖怪は【河童(かっぱ)】
対馬を代表する妖怪と言えば河童(カッパ、というよりガッパ)です。
普段は河の淵に潜んでおり、キツネが生息しない対馬では、代わりに人に憑依します。(ガッパ憑き)
対馬観光物産協会 Ghost of Tsushima(ゴーストオブツシマ)と対馬の妖怪について
GoTの対馬には狐がいます。そして、狐はお稲荷さまの使いなので狐憑きという悪さもしていませんでした。
しかし河童に関連するサブイベントはあります。
カッパが現れたと話し、父親が戻らないことを心配した娘の頼みで調べると、犯人は賊で父親は殺されていました。
依頼した娘に犯人が人間だったことを報告すると、仁がウソを言っていないことを分かった上で「いいえ、こんなひどいことを人間にできるはずがありません」ともらします。
容赦のない蒙古も、追い詰められて民の命と食糧・財をうばう賊。人でなしであふれているGoTの対馬の現状がよくわかるイベントです。
まとめ
戦争ではどの国も非道なことをした歴史があります。それでも蒙古の記録は、人類史に残るほど恐ろしい所業だったと言えるでしょう。
ゲームの中でもこれだけ辛いのに、現実に起きたとは信じたく無いくらいです。
GoTでは仁が生き残り、冥人にならなければ蒙古に敗北して、対馬の人間が全て殺されるか奴隷にされていたことでしょう。
ところで、GoTは海外のゲーム会社がつくったゲームです。
日本は文化が独特で複雑、さらに四方を広い海に囲まれている島国なので外国からは理解するのがむずかしく、現代では日本人もよく知らない文化が多くあります。
しかしGoTは特有の違和感がなく、日本人以上に、当時の日本の文化や武士が持っていた誇りを見事に演出しています。
日本の歴史マニアが作ったと言われても信じてしまうほどのクオリティなので、気になった方、もともと気になっていた方、SEKIROや鬼武者が好きな方はハマりやすいと思います。
ぜひ、冥人となり蒙古から民を救うストーリーを体験してください。
参考・引用情報
iRONNA モンゴル・朝鮮軍が日本で行った“殺戮” 『産経新聞』
NHK高校講座テレビ学習メモ モンゴル襲来と社会の変貌(PDF)
Kimono Tea Ceremony MAIKOYA 本物の日本刀で試し斬り体験